不思議な日

赤坂から御徒町までのタクシー車中、3週間前に青森から上京したばかりだという運転手が故郷の話を熱量高く私に話し始めた。

 

東京は人が多く、どこに行ってもお祭り騒ぎですよね。それに比べて青森は日中商店街でも人と会うことがない日があるんですよ。だけど酒と米は美味いんだよね。私はただひたすら次の仕事のシミュレーションを頭の片隅で描きながら少々上の空で、そうですかと相づちを打っていた。

 

あっという間に御徒町に到着し、とある写真家との雑誌の対談の仕事に臨んだ。

 

会話は順調に滑り出し、写真家が東京は人が多くどこに行ってもお祭り騒ぎだよね、と切り出した時、私はついさっき聴いたフレーズだと心の中で笑ってしまった。

こんな偶然もあるんだ。先ほど乗ったタクシーの運転者も同じことを言ってましたよと写真家に話すと、地方から出てきた人は最初はみんなそう感じてしまうんだよ。しばし和やかな会話は続き彼のスタジオを後にした。

 

次は芝公園で会食会。

 

時計を見たら待ち合わせまであとわずかだったので手を挙げ足早にタクシーを拾った。

こんな偶然もあるんだ、先ほど乗った同じタクシーだった。

運転手も驚き、私も運命的再会に心躍り、こんな人が多い東京で珍しい体験が出来て、今日は幸せだと運転手とルームミラーで笑いあった。

車中、彼との会話も弾み、また会えるといいねと言って下車した。

今日の出来事は偶然ではなく会うべくして会った尊い人に思え、その後タクシーを拾う度に彼との再会を期待してしまうのだ。

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