夢の中の現実

沖縄に出向いた。

 

気温23度、短パンTシャツ、ビーサンですこぶる快適だ。

同じ日本に一年中ハイビスカスが咲き乱れている緑の島があることが嬉しい。気分も心なしか開放的になり、気がつくと鼻歌を歌っている自分がいる。東京での生活からどんどんかけ離れ、つい派手目のシャツを買い気分上々で小さな町を歩き回っていた。

 

ある細い路地をてくてく歩いていると塀がない民家の庭に咲く、風鈴ブッソウゲという不思議な花が咲いていた。図鑑で見たことはあったが、本物は初めてで風に揺れるこの花の姿は、この世のものとは思えぬほど、なんとも美しく私をしばし夢の世界に魅了した。

幸せ満点のその時、民家の中から少年らしき泣き声が聴こえてきた。

「もう受験勉強は嫌だ!おれ中学には行かない!」この一言で私の心は夢から現実に舞い戻ってしまった。

風に揺れる風鈴ブッソウゲの花が、こんな楽園の中でも受験戦争と戦わなくてはならない、赤く燃え上がりこころ揺れ動く若い戸惑いのようにも思え、派手なシャツもこの場には場違いだと感じたことも可笑しかった。

 

つくづく人は環境に左右される生き物なんだなと次なる夢の世界を見つけに足早にその場を後にした。

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