憧れ・現実・希望。

私は小さい頃から職人の世界に憧れ続けてきた。
たくさんの道具を腰にぶら下げ、器用巧みに柱の上を動き回る大工。縁側に腰を据え弟子とお茶をすする休憩時の植木屋。白い鼻緒の雪駄に足袋をはき手編みのマフラーを首に巻いてパチンコ打つ料理人。そんな思いもあって、高校時代は仲間二人と家の近くの和食小料理屋でバイトをしていた。

もちろん仕事は皿洗いと調理場の清掃に明け暮れる毎晩だ。板長・煮方・焼き方の先輩とは直接口もきけず、使い走りのお兄さんからすべてのお叱りや指示を受けるわけで、憧れとはほど遠い厳しい大人の世界だった。唯一の楽しみといえば、毎日同じではあったが、半丁の冷奴、味噌汁、おかわり自由の白米のまかない食。あっという間に月日は流れ、店を辞める当日初めて板長さんが「兄ちゃん、ありがとさん、助かったよ達者でな」と言ってくれて嬉しかった。

そのひと言は今も私の花人生をも支えているようにも思われ、当時憧れて買った白い鼻緒の雪駄を無性に履きたくなった。

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