私の通勤経路に、住宅街の中にぽつんと営む酒屋がある。
店先の横には道に大きく張り出し、程よい日よけ代わりになる桜の木があり、その下では店主のおじいさんが朝晩必ず壊れかけた椅子に座り、タバコを片手に道行く人々を笑顔で見送ってくれる。
なんともアジアンチックでほっとする光景と優しさに、私も何回ともなく癒されたことか。
そのおじいさんが数日前に他界され、残された壊れかけの椅子と桜の木が寂し気にたたずむ。
ある朝その道をゆくと、張り出した桜の枝は切り落とされ、壊れかけの椅子も見当たらず、以前の風情や面影が消去された悲しみに、私は一時代が終わってしまったようなショックを感じた。
変わるも発展とよく言われるが・・・いや、この場所は「変わらぬも発展」であってほしかったな。